
- 核酸、タンパク質に次ぐ第三の生命鎖と呼ばれる「糖鎖」は様々な形で存在しています。最も馴染み深い糖鎖は、コメやイモに含まれるデンプンです。デンプンとはグルコース(ブドウ糖)が鎖のように連なっており、ヒトのエネルギー源となります。
アミロースとセルロースの違い
図1に示しますように、このデンプンの主成分であるアミロースは、グルコース同士が α1→4のグリコシド結合で繋がっていますが、グルコースがβ1→4グリコシド結合で結合した場合は、植物細胞壁に多く含まれるセルロースという分子になります。同じグルコース成分からなる糖鎖であっても、その結合様式により大きく異なる物質となります。また連なる糖の数も多様です。砂糖(スクロース)や乳糖(ラクトース)は2つの糖が結合した二糖から構成されていますし、上記で述べたセルロースは数千のグルコースが連なって構成されている巨大分子です。

細胞表面上の糖タンパク質と糖脂質
上記のような糖鎖に対して、タンパク質や脂質と結合した複合糖質として存在する糖鎖も多く存在しており、生体内で重要な役割を果たしています。図2に示しますように細胞の表面上に存在するタンパク質や脂質上にグルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、フコース(Fuc)、マンノース(Man)、 Nアセチルグルコサミン(GlcNAc)、Nアセチルガラクトサミン(GalNAc)、シアル酸(NeuAc、NeuGc、KDN)、キシロース (Xyl)などの糖が連なった糖鎖が結合しており、このような分子は糖タンパク質、糖脂質、プロテオグリカンなどと呼ばれています。

ABO血液型
ABO血液型は赤血球上糖脂質の糖鎖構造の違いによって区別されています(図3)。A型とB型ではNアセチルガラクトサミンかガラクトースかのささいな違いですが、これら異なる血液がひとたび間違って輸血されると異物として扱われ拒絶反応を起こします。

白血球の細胞外糖鎖染色
また図4に示しますように、糖鎖は細胞外にびっしりと発現していることから、細胞が他の細胞と反応する時には糖鎖を介することが多く、発生・分化・免疫・老化・疾患に糖鎖は深く関与しています。

インフルエンザウイルスの感染経路
図5にはインフルエンザウイルスによる感染経路を示しました。インフルエンザウイルスはヘマグルチニン(HA)というタンパク質を持っており、このタンパク質が宿主細胞上のシアル酸という糖鎖の末端に存在する糖と結合します。この結合により宿主細胞に接着することが成功したインフルエンザウイルスは、細胞内に侵入し増殖します。そしてさらなる増殖の為に細胞外に飛び出す必要があるのですが、その際にシアル酸との結合をノイラミニダーゼ(NA)というシアル酸切断酵素を用いることにより宿主細胞から切り離され、他個体への感染が可能となります。タミフルはこのシアリダーゼ活性を阻害する薬です。またある種の癌には特異的な糖鎖が発現しており、これが転移先のレセプター(セレクチン)と結合することによって癌転移が起こるとも考えられています。他にも糖鎖を介した感染ケースは数多くあります。また、糖鎖構造が病状と共に変化することなども明らかにされており、糖鎖は疾患に深く関与している分子です。

このような生命現象における糖鎖の役割を解明する上で、糖鎖構造を解析することは非常に重要です。50%以上のタンパク質には糖鎖が結合しており、糖鎖が結合することで本来のタンパク質としての機能を発揮することから糖鎖を無視することはできません。タンパク質は遺伝子の翻訳によって構築されますが、糖鎖はタンパク質ができあがった上で構成される翻訳後修飾であるため、遺伝情報からだけではその構造を解明することはできません。そのため糖鎖構造解析は非常に困難であり、専門的な知識とノウハウが必要となります。
